コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援5】聴力検査

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学年が上がると、
「聴力検査は行きません」
と、自ら冷静に言うようになったふたりですが、1年生の頃は聞こえるみんなと同じことをなんでもしたがりました。

何がなんだか分からない日々をこなすだけの私。
「今日は聴力検査があります」
とある日突然告げられ、
『ふーん、聴力検査ね。……え?聴力?』
と我に返ります。

『聴力検査する必要ある? だって、“ろう”なんだから聞こえないじゃん。』

そう思った私ですが、なぜか肝心な時に難聴学級担任は居ないので(担任がいないとは一体どういう状況なのか)、悩んだ末、ふたりに聞いてみました。
「聴力検査だって。どうする?」
すると二人は目を輝かせ、
「やりたい!やりたい!」
と言ったので、聞こえる子どもたちとは別の時間にしてもらい、3人で保健室に行きました。
養護教諭がおそるおそる、
「聞こえないんでしょ?」
と言ってはいましたが、
「本人たちが検査を受けたがっているのでお願いします」
と、私は笑顔でお願いしました。

ヘッドホンを付け、音を聞き取ろうとしているろう児の姿は、私から見たらとても奇妙でした。
どう考えても聞こえる訳がないからです。
ろう児は聞こえることを期待し、ワクワクした表情をしていました。
「聞こえたらボタンを押してね」
一応、通訳はしました。
ろう児には聞き取れない音です。
ヘッドホンをつけたまま真顔でひとこと、こう言いました。

「聞こえない。」

そりゃあそうでしょう。
『聞こえないから君たちは難聴学級に入ってきたんだし、そもそも何のために私がいるんだ。』
私がそんなことを考えていることはお構いなしに、もう一人も全く同じ行動をとっていました。
しまいにはふたりはくっついて、ひとつのヘッドホンに耳を当てていましたが、それでも聞こえるわけがありません。
養護教諭が目盛りを最大にしてくれたので、ヘッドホンどころか機械そのものから音がもれていました。
こんな聴力検査、あとにも先にも見たことがありません。
ですが、彼らに音は聞こえないのです。

「全然、聞こえないや!なぁ!」
「うん、聞こえない!」

なんともシュールな場面でした。
養護教諭にお礼を言い、難聴学級教室に戻りました。
今でも時々、このときの様子を思い出します。
聞こえなくても皆と同じように検査が受けられて、とても満足そうなふたりの姿。
小さなふたりがそろって、

「聞こえない」

と首をひねる姿は、私の中で特に忘れられないシーンです。

 

地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。