コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援13】「全員、目をつむれー!」

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地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。

小学校は毎日毎日、さまざまな事件の連続です。
何もない日の方が珍しかったほど。
やれ、あの子がこれをした。
やれ、この子がこんなことを言った。
こんなことが日常茶飯事です。

学年が上がり5年生になったとき、交流(親)学級の担任の先生が初めて男性の先生になりました。
なにかのアンケートを多数決で取る際に、誰が何に手をあげたのかは担任しか分からないようにできる方法が取られました。

「全員、目をつむれーー!!」です。

聞こえる子どもたちはそっと目を閉じて、先生の声に耳を傾けました。
そう、そのとき一番困ったのはろう児ふたりではありません。

私です。

「ああそうか、ここは小学校だった」と、私は改めて思いました。

私がまさかの状況に固まってしまい手話をしないので、何が起こっているのか分からずポカーンとするろう児ふたり。
私が唖然としている場合ではありません。
すぐに手話通訳をして伝えますが、私はこう付け足しました。

(手話で)「目をつむってはダメ!目は絶対に開けていて!!」

真逆の指示を出しました。

高学年のころには、私はふたりのそばではなく、授業者の横で通訳を行っていました。
ふたりの席も近くではなく、離れていることの方が多かったのです。
遠くの席にいるふたりに手話で伝えました。

(手話で)「他のみんなは目をつむって耳で聞いているけれど、あなたたちは目を開けていて!!」

難聴学級の担任と交流学級の担任に、聞こえないソラとリクは目を開けていても構わないという確認を即座に取り、そのアンケートは行われました。

「〇〇だと思う人~~」
パラパラと手が上がります。
「××だと思う人~~」
アンケートは進みます。

ここで性格の違いが出たのです。
お調子者のソラは、まわりをきょろきょろと見渡し、なんと目をつむったのです。

「なんで目をつむるのよーーー!!!」

心の中で叫ぶ私。

目をつむられては手話が伝わりません。
そこは難聴学級担任と私との素早い連携プレイ。
目をつむってしまったソラの席へ難聴学級担任に直接行ってもらい、肩をたたき、即座に目を開けさせました。
ソラは聞こえるみんなと同じことをいつでもしたがる性格でした。
ソラの気持ちも充分に分かるのですが、今じゃないだろう…とこの時ばかりは思いました。

リクはというと、真面目でどちらかというと臆病者なので、
「ぼく、みんなの意見が見えちゃうよ?いいの?」
とびっくりしながら顔面蒼白状態。
「いいのよ」
という意味を込めた表情で、私はじっくり頷きました。
他に方法がないのです。

聞こえる子たちと一緒にいるとこのようなことも経験することもあるので、貴重な経験をしたなと思いました。

ふたりは学童でも面白い経験をたくさんしていました。
私は学童へ時々足を運び、二人の様子を見に行くことをしていました。
学童施設は学校のすぐ隣にあり、しかも校庭と繋がっており、道路を通らず行けるという恵まれた立地です。

「目をつむって1分間数えるゲーム」

聞こえる子どもたちに交じって、普通にそれをやっていたのです。
私は心底驚きました。
「聞こえないからできないだろう」
というのは私の勝手な思い込みでした。
私の無意識の意識の中に、そういう思いがあることにも気づかされました。

実に楽しそうに遊ぶ子どもたち。
失敗しても(というか何回やっても失敗するのですが)、
「もう1回!もう1回!」
と、聞こえる子らと一緒になって楽しんでいました。
時計の針の音は聞こえなくても、
「1、2、3、4、……」
秒の速度を大人がろう児に教えてあげれば、聞こえる子と一緒にできるのです。
心の中で60秒数えることは、聞こえる聞こえないは関係ありません。

そもそも人間は時間の感覚を、どうやって身に付けるものなのでしょうか。
秒針の音が聞こえないろう者は、聞こえる人とは違う感覚を持つのでしょうか。

学童の先生にもとてもお世話になっていたふたりは、学校だけではなく学童でもたくさんのことを学んだのだと思います。

「シオン先生。この子、ウインク苦手ですよ(笑)」

学童の先生は、私にもたくさん話しかけてくれて、学童での様子をいろいろと話してくれました。
「ウインク」というカタカナことばが出てくるだけでも、
「伝わるのか?」
とすぐ心配になってしまった私でしたが(「ウインク」ということばは教科書には出てこないと思われます)、学童の先生と一生懸命ウインク合戦するろう児の姿はちょっと面白かったです。

「ほらーー!両目つむっちゃうんですよーー!(笑)」

笑われて、「くそ~~!!」とくやしそうなろう児。

学童の先生方はろう児を特別扱いすることなく、聞こえる子と同じように接してくれているのがよく分かり、私は今でもとても感謝しています。

「聞こえなくても、ダメなものはダメって教えています。」

学童の先生はいつもそう言っていました。
学童にも理解してくれる方々がいてくれることで、私も本当に救われました。
たくさん笑って、たくさん怒られて。

ろう児も私も、いろんな人に支えられている日々でした。