コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援14】ニンテンドースイッチ

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地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。

宿題を忘れたり、筆箱を忘れたり、プリントを忘れたり。
小学生なので仕方のないことだったのかもしれないのですが、私は常に怒っていました。
毎日毎日ふたりに対して怒り狂っていた私でしたが、怒りが頂点になった出来事があります。

小学校では毎日基本的には「集団下校」といって、全校児童(およそ200人)が集まり児童会役員が司会をし、連絡事項などを伝え、「明日も元気に登校しましょう!さようなら!」とあいさつを行っていました。
その集団下校の際、校庭にみんなが集まっている最中の出来事。

ろう児ふたりは毎日ゲームをしすぎていて、母親から怒られていました。
(家庭でゲーム機を取り上げてしまえば済む話だとは思ったものの)「先生からも注意してください」ということで、「スイッチのやり過ぎはダメ」と私からも注意を促すことにしました。

(手話で)「スイッチ/時間/長ーーい/ダメ!」

私の手話を見て、ふたりは「分かった」と言うかと思いきや、
「なにそれ。」
と音声で言い、ふたりは私の手話(CL)を指摘してきたのです。

(音声と手話で)「スイッチはこうじゃないよ、こう。」

私はいまだにニンテンドースイッチを触ったことがありません。
現物を触ったことがないのですから、コントローラーのサイズ感や形など知りません。
なんとなく手話をした私も悪かったのですが、私がふたりを注意する場面で、まさかの手話(CL)指導をふたりから受けたわけです。
一瞬にして私の怒りは頂点に達し、ふたりはまたもや私から怒られるのです。

「とにかく、ゲームのやりすぎはダメ!!!!」

3人でのそんなやりとりを、聞こえる子たちはいつもニヤニヤ眺めていました。

「シオン先生、今なんてふたりに言ったの?」
聞こえる子が聞いてきました。
カズキです。
ふたりとは家が近所で、登校班が一緒で仲良くしていました。
「スイッチやり過ぎんな!って注意したら、手話が間違ってるって逆に私に注意してきたんだよ。」
「自分らが注意されてるときに?」
「そうだよ!」
「あはは!」

そう言ってカズキは、
「ス イ  ッ チ 、や り 過 ぎ ん な !」
と、口を大きく動かして見せて、双子に絡んでいくのです。
「なんだよー(お前関係ないじゃん)」
といつもの仲の良いコミュニケーションが始まります。

聞こえる子たちは、口話・手話・身振り手振り・強めの表情を上手に使ってふたりとよく会話をしていました。
その様子はとても楽しそうで、幸せな時間でした。

私たち三人のやりとりは傍から見ていると「面白い」らしく、聞こえる皆がいつも見守ってくれている環境だったと思います。
「おもしろい?」
と聞くと、
「うん。なんか癒される。あいつら可愛いもん。」
カズキはいつもそう言いました。

聞こえる子たちはどんどん大人になっていきました。
そのスピードには目を見張るほどに。
聞こえる子どもたちの心の成長も、私は常に身近で感じてきました。
聞こえないふたりとは比べ物にならない速さでした。
聞こえる同級生たちは、聞こえないふたりのことを「可愛い可愛い」とよく世話をやいてくれました。
同い年なのに、なんとなく幼いふたり。
聞こえないことが理由で、喋り方や喋る内容がどうしても聞こえる子たちよりも幼かったのです。
それでも、みんな仲良く毎日過ごしていました。

聞こえる同級生とふたりは、いつでも不思議な関係でした。