コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援16】ろう児と手をつなぐ

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地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。

「遠足」という名の「校外学習」。
思い返せば、いろいろなところに遠足で行きました。
1年生の春の遠足。
近くの大きい公園に学校から歩いて行きました。
1・2年生が一緒。
ぞろぞろと何十人もの子どもたちが、先生に引率されて道路の端を歩きます。
「車が来たよー!気を付けてーー!!」
車が近づいてくる音も、先生の声も、ろう児には聞こえないので、ひやひやしながら引率したのを思い出します。
慣れない道を、黙々と足元を見て歩くろう児。
お友達は同じように足元を見ながらも、みんな楽しそうに喋りながら歩いています。
「音声で会話すること」と「歩くこと」が同時にできるからです。
離れた場所にいる先生に話しかけてくる子もいます。
「先生ーー!!〇〇くんと△△ちゃんが喧嘩してまーーす!!」
こんなのも普通です。
「先生ーー!△△ちゃんが2年生泣かしたーーー!!」
当時1年生だったふたりの同級生はなかなかに強い子がおり、逆に2年生はおとなしい子ばかりで、そんな時、先生たちが半ば呆れながら対応していたのを思い出します。

聞こえていれば知ることのできる情報が、遠足の時だけではなく、毎日こぼれ落ちていくような感覚を私はいつでも感じていました。
目の前の友達が喋っている声が聞こえないのです。
目には見えないこぼれ落ちたものを、すべて救いあげることはできませんが、それでも私は必至で伝えることをしてきました。
聞こえる世界で起こっていることを。

何がまわりで起こっているか、ろう児には聞こえないため分かりません。
歩くことの妨げにならないように、私はふたりに状況を手話で説明しました。
喧嘩のことももちろん伝えました。
ふたりには知る権利があるからです。
あとで、「知らなかった!」という寂しい思いをすることが無いように、私がいた場面ではなんでも伝えました。

私「犬が鳴いているよ」
ろう児「どこ?あっ、ほんとだ、犬がいる!」

私「サイレンの音が聞こえるよ。救急車かな。」
ろう児「ふ~ん」

まっすぐ歩くことだけしていれば目的地には着くのですが、聞こえてくるものをできるだけ私は伝えました。
誰からか頼まれた仕事ではないのですが、私がそうしたかったのです。
反対に、自分が見えたものをろう児は私に教えてくれました。
小学校のまわりは果樹園が多く、野菜を作っている畑もあったので、自然豊かな良い環境でした。

そういえば、この時のふたりは『自動販売機』ということばを知らない様子でした。
お金を入れればジュースが買える機械だということは分かっています。
ですが『自動販売機』『自販機』という単語が耳から入らないので、知らないのです。
こういったことはいつでもどこでもあり、6年間ずっと気を付けながら様々なことばを教えてきました。

ところで本題。
その遠足の時だったと記憶しています。
「ふたりで手をつないで歩いて!!」
と指示がでました。

「手をつなぐ?ろう児と?」

手を繋いでしまっては、手話がやりにくくなってしまいます。
しかし、まわりはみんな手をつないでいるので、ろう児も同じように手をつなぎます。
『手を使って話すろう者が手を繋いで歩く』ことを見たことも想像したことも無かった私は、戸惑いました。

「子どもだから、まぁ、いっか?いいのか?」

なんだか微妙な気持ちになりました。
学年が上がると成長と共に恥ずかしがって手など繋いでくれなくなりますが、ついこの間まで保育園生だった6歳のろう児は、すんなりと手を繋いで歩いてくれました。

生意気だったふたりが、ちょっぴり可愛く感じたのを思い出します。