コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援20】ろう児は歌う

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地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。

音楽の授業。
それは聞こえる子であれば、個人差はあると思いますが、国語や算数をするよりは楽しい時間でしょうか。
では、聞こえない子にとって音楽は楽しい時間でしょうか?

ふたりは音楽が好きでした。
保育園でもそうとうやってきていた様子で、音楽を嫌がる様子はまったくなく、聞こえる子といっしょに普通に歌を歌っていました。
ただ、音程は取れません。
そもそも音の高さ・低さがどこまで分かっていたのかも分かりません。

音程は取れませんが、リズムを楽しむことはできますし、声も出ますので歌うことはできます。
では、聞こえない子はどうやってリズムを覚えたらいいのでしょうか。
聞こえる子は自分の耳で聞き、音程もリズムも取れるようになります。
歌詞も簡単に覚えてしまいます。
聞こえないふたりは自力で音を聞き分けることができないため、私が音楽に合わせ、肩などを叩いてリズムを刻みました。
そうやってリズムを覚えさせてきたのです。
歌詞は耳から覚えることができないので、文字を目で見て覚えました。

低学年の頃は私も知っている曲が多く、やさしい曲ばかりだったので、なんとかすぐに覚えさせられましたが、中・高学年になってくると、私も所見ではすぐに覚えられない曲ばかりになり、難易度もが上がっていきました。
アルトやソプラノでパートに分かれて歌うこともありました。
低学年の頃はとにかくみんないっしょに楽しく歌いましたが、だんだんと難しくなります。
それでもろう児ふたりは、新しい曲が提示されるたびに必死に歌を覚えました。
聞こえる友達と一緒に歌うために。

聞こえる子であれば、家にいても買い物に行っても、どこでも音楽を聞くことができます。
聞こうとしていなくても、自然に耳から入っているので、
「この歌知ってる!」
ということは普通にあります。
しかし、ふたりにはそのようなことは一切無いのです。
毎回、知らないものを一から覚えていかなければなりませんでした。
ふたりが一から覚える前に、私が歌を知っていなければならなかったので、音楽担当の先生からCDを借り、私も必死で歌を覚えました。
私が歌を知らないと、リズムを刻んであげられないのです。

小学校では「全校合唱曲」が決まると、掃除の時間や給食の時間など、校内放送で曲が流れてきます。
掃除をしながら、給食の準備をしながら、聞こえる子は鼻歌交じりで曲を覚えてしまいます。
図工の時間、絵を描いているときに、教室で曲を流す先生もいました。
聞こえる子は作業をしながらどんどん曲を覚えていきましたが、ろう児には不可能なことでした。
ろう児と向き合って、集中して確認をとりながら、リズムで曲を体に覚えさせました。
時間のかかる作業でした。
とても間に合わないと感じた際は、帰りの会の後に時間の許す限り、ふたりは頑張って歌を覚えました。
担任と私とでろう児の体にリズムを刻みましたが、担任と私のどちらかしかいなければ、両手を使い、ひとりがふたりのろう児にリズムを刻みました。

おそらくふたりとも高学年の頃には、「自分たちは音楽は苦手だ」という風に思っていたでしょう。
しかし、苦手であってもふたりが音楽を好きなのは、私は分かっていました。
歌の練習も楽器の練習も、ふたりとも一生懸命取り組んでいたからです。
そして楽しそうに歌ったり演奏したりしていました。

聞こえるクラスメイトとは、同じペース・同じ内容で授業ができないことがあり、音楽の授業は難聴学級の教室で行うことが多かったです。

私はずっとろう児にリズムを刻み続けていましたが、5年生になった頃には、クラスメイトが率先してやってくれるようになりました。
ふたりも、大人ではなくクラスメイトが協力してくれることに戸惑っていましたが、
「お願い」
「いいよ」
と自然と歌の練習の時はふたりそれぞれに誰かが付いて、リズムを刻んでくれていました。
歌を覚えきってしまうと、
「大丈夫!ありがとう。」
「ホント?大丈夫?」
と、そんなやりとりをしている姿が見受けられるようになり、聞こえるクラスメイトの存在がとてもありがたかったです。
私がやってきたことを、自然と聞こえる子どもたちが受け継いでくれたのですが、子どもたちの成長を感じて、嬉しくなった出来事でした。