コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援23】補聴器 その3

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地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。

毎朝、ろう児が補聴器を両耳に着けているかどうかチェックするのが日課でした。
補聴器を無くしたときに困るからです。
朝から着けていたのか、着けていなかったのか。
それが分かっているのといないのでは対応が変わります。
低学年の頃は特に気を付けていました。

補聴器を何が何でも両耳に装用しているふたりですが、ときどき着けてこないときもありました。
「補聴器忘れました!」
と、報告してきます。
ふたりは補聴器を着けていないときは、完全に「ろう」になるので、私はその方が支援しやすいと感じていましたが、補聴器を着けているのと着けていないのではこちらの対応も変えなければなりません。
補聴器を着けている間は大きい声で呼べば振り向くので、それに慣れてしまうと、いざ両耳とも補聴器が無いときは、いくら声で呼んでも気づきもしません。
「補聴器してないんだった…!」
慌てて私はろう者対応モードに切り替えて、駆け足でろう児の肩を叩きに足を動かします。
声で呼んで振り向くことに慣れてしまうと、こういう時に切り替えが大変でした。

片耳だけ補聴器の日もありました。
「耳が痛いです……」
中耳炎にはなりやすようでした。
やはり、耳には常に負担がかかっているのだと思います。
痛そうな姿は、さすがにかわいそうだと感じました。
朝家を出るときから夕方まで、ずっと耳に装用しているのです。
リクはその耳に、さらに眼鏡が乗っかるようになり、そこへマスクもしていました。
いつか耳がちぎれてしまうのではないかと、実はハラハラしていたのを思い出します。

さっきまで補聴器を両耳にしていたのに、急に片耳になっていたりもします。
「補聴器は?」
「電池が切れました。」
電池を自分で管理するのも、子どもには大変なことでした。

「補聴器失くしました!」
こう言われた日は、朝から気持ちが滅入ります。
「どこで失くしたの?」
「分かりません!」
ふたりは、学校と家を行き来するだけではありませんでした。
学童へ行く日もあれば、お習字を習いに行く日もありましたし、おばあちゃん家に行くこともありました。
休日は家族でお出かけです。
どこでどのタイミングで補聴器を外して置いたのか、記憶しているのも難しいことです。

補聴器は決して安いものではありません。
補聴器の価格を知っていれば、無くすことは減ったのでしょうか。
現代のろう者にとって、補聴器は必需品です。
補聴器と共に生きている感じです。

補聴器を着けなくても、私がいれば問題なく授業は進められました。
手話があったからです。
むしろ、音に気を取られることがなくなるので、集中できるようになります。
本来のろう児の姿です。
補聴器を着けていないふたりはずっとこちらを見てくれるので、手話での指示がものすごく伝わります。
私はこの方が手話通訳をしやすかったです。
補聴器を着けていると音に気を取られて視線が動いてしまい、注意が散漫になる感じでした。

補聴器に関しては、聞こえる子たちは最初は興味深々でしたが、成長するにつれ、ソラとリクは補聴器を着けているものだと普通に認識したみたいです。
ソラとリクがどのくらい聞こえないのかということは、私が口で説明などしなくても、日々の学校生活の中で、聞こえるクラスメイトたちは充分に分かっていました。
「ソラ~~~」
と声で呼ぶ子がいれば、
「聞こえるわけないじゃん」
と、ほかの聞こえる子が即座に突っ込みます。
「あっ、そっか。」
そんなやりとりを音声でした後に、ソラの肩をたたいて呼ぶ聞こえる子。

これが、いつもの学校風景でした。
聞こえない子も聞こえる子も、一緒に活動していたのです。