【ろう児教育支援24】保健室でも怒られる
児童がきちんと人の話を聞いているかどうか。
これは教育の中で、至極大事なことです。
しかし、ろう児(難聴児)は耳が聞こえないため、話を聞くことが困難です。
この『話の聞きかた』へも書きましたが、ろう者は分かっていないのにうなずくことをすると書きました。
ある日、ソラを連れて保健室に行ったときに、マユミ先生から話しかけられたソラは、聞こえていないため話の内容などなにも分からないのに、
「…はい!…はい!分かりました!」
と私の目の前で、大きな声で返事をしたのです。
普段聞こえる人たちと常に関わっているソラは勘も鋭く、まるで聞こえているのではないのかと思わせるような行動を取ることが多々ありましたが、これだけは私の逆鱗に触れました。
「ソラ!!マユミ先生が今何て言ってくれたか私に言ってみなさい!!」
ビクッとなったソラは、
「分かりません…」
「分からないのにどうして返事をしたの!!」
しまった…!という顔をするソラ。
普段、人から話しかけられたらいつもこうやって適当にその場をやり過ごしていたのでしょう。
聞こえない子が適当に返事をしてその場しのぎをすることは仕方のないことかもしれません。
ですが、それは時と場合によります。
「なんで返事をしたの!答えなさい!!」
私に叱られたソラは、「…早く教室に戻りたかったから…」と言いました。
「ソラ、マユミ先生はやさしい先生だから悪いことは言わないけれど、あなたは聞こえていないのだから『はい』と適当に返事をしてはいけない!相手が意地悪なことや大切なことを言っていたらどうするの!?『後から、聞こえないので分かりませんでした』じゃ済まないこともあるんだよ?」
ソラがこの話を分かったのか分からなかったのか、そのあたりは私の記憶の中で薄れてしまっていますが、保健室のマユミ先生の目の前で、ろう児を怒鳴りまくった印象だけが記憶として残っています。
マユミ先生に「大きな声を出してすみません」と謝ったので、よく覚えているのです。
「適当に返事をして、トラブルに巻き込まれてしまうかもしれない…!」
私が激怒したのは、そんな想いが巡ったからです。
聞こえる子と同じように返事がしたかったのかもしれません。
ですが、実際ソラにはことばは何も聞こえていないのです。
理解できたはずがありません。
そんな出来事があり、保健室のマユミ先生も私(手話通訳)がいないときは、筆談でろう児とやりとりをしてくれるようになりました。
私が最初から筆談をお願いしておけば、ソラは怒られることは無かったのかもしれません。
ですが、起こるべくして起こった出来事だと私は思いました。
聞こえない本人が「聞こえないから書いてほしい」と伝えることも必要だし、聞こえる側も相手の耳が聞こえないと分かっているのであれば「声では無く、紙に字を書いて伝える」という配慮が必要になってきます。
しかし、まだ小学生のろう児には「書いてください」というのは難しかったかもしれません。
そして聞こえる側は、忙しくて手がふさがっていたかもしれません。
書く暇などないかもしれません。
それが現実社会なのです。
ソラとリクは音声で話すこともしていましたが、たとえ音声で話すことができても、耳でことばを聞くことはできません。
聞こえるようにはならないのです。
だからこそ、ひとつひとつのコミュニケーションを大切にしてほしいと強く指導をしてきました。
私の想いが少しでも、ふたりの心に伝わっていることを願うばかりです。