【ろう児教育支援25】ろう児は聞こえる人に合わせる
ろう児ふたりのまわりは、みんな聞こえる人たちばかりでした。
子どもたちも先生たちも。
支援をしていた私も、聞こえる人です。
ある日の体育の授業の時でした。
グラウンドの広範囲で活動していた子どもたち。
聞こえる子どもたちは、大きな声でコミュニケーションを取っていました。
チャイムが鳴ればさすがにろう児も気づくのですが、この日は予定が後々詰まっていいて、そのためチャイムが鳴る前に授業を終了しました。
グラウンドに散らばっていた子どもたち。
ボールを使った活動をしていたと記憶しています。
まだなんとなく動きを続けている子どもがまわりにいると、ろう児には終わりだという情報が伝わりません。
勘の良いソラは早々に気がつき次の行動に移せたのですが、リクはまだ気がついていない様子でした。
私からリクまでの距離がかなりありました。
「聞こえないしな~、どう伝えようかな。」
と悩んでいると、私の近くにいたユウトが、
「リクーーーーー!!終わりーーーーー!!!!」
と大声で叫びながら、「終わり」の手話を大きくやって、リクに伝えてくれたのです。
すると、リクは気がつきました。
私はてっきり、リクは「分かった」の手話をするもんだと、胸を大きく叩く姿をイメージしたのですが、
「分かったーーーーーーー!!!!!」
リクは大きな声だけで返事をしました。
その後は声を出さずに、リクと目線をずっと合わせながら、何度もしつこく「終わり」「終わり」と手話をするユウト。
離れた場所のユウトと目を合わせ、うんうんと首を縦に振り、うなずきで返事を返し続けるリク。
「ありがと、ユウト。」
私がそう伝えると、「へへっ」と笑いながら、ユウトは教室へ戻ります。
リクもボールを片付けて、教室へ戻りました。
聞こえる友だちに合わせて声で返事をするのは当たり前なのかもしれませんが、手話と音声をろう児なりに、相手に合わせて使い分けているということが分かった瞬間でした。
それから、こんなエピソードがあります。
彼らが1年生の時、教頭先生は女性のカンバヤシ先生でした。
ろう児のことをとても気にかけてくれており、私にもいつも声掛けをしてくださっていた先生です。
1年生のふたりが、なぜが夕方5時過ぎに校庭の遊具で遊んでおり、声をかけたのだそうです。
私はすでに勤務時間を終えていたので帰宅していたのですが、その時の様子を話してくださいました。
「ふたりで遊んでいたんだけどね、下校時間はとっくに過ぎてるし、学童も開いてない日だったし。声をかけたかったんだけど、伝わるかなぁって思って。でも私、話しかけたのよ。」
続けて教頭先生はこうおっしゃいました。
「どうもお母さんを待っていたみたいなのよね。6時にはお母さんが迎えに来るんだって言うのよ。あの子たち、『6』ってこう出したわよ。」
左手の手のひらに右手の人差し指を一本添える形を表していました。
6歳にして、教頭先生には手話は分からないから、ろう児はそう表したのだということが分かりました。
「手話で『6』ってあるんでしょう?でも、あの子たち、私に合わせてくれたのよね。」
教頭先生の気づきにも、ろう児のやりとりにも、感慨深く感じたエピソードです。
理解者の存在は、ろう児にとってはもちろんですが、私にとってもありがたい存在でした。