コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援29】「はみ出しちゃった!」

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図工の時間。
粘土を使って作品を作ったり、クレヨンを使って絵を描いたり、ハサミを使って切り貼りしたり。
道具を使い、作品をいろいろ作りました。
子どもたちの机の中には「おどうぐばこ」というものが入っており、そこには、のりやハサミ、セロハンテープ、クーピーなど、様々な道具が入っています。
ちなみに「道具」という手話は一般的にはありません。
辞書には載っているかもしれませんが、実際に使われる場面を私はほとんど見たことがありません。
手話の場合、「ハサミ」や「のり」と具体的に物を伝えます。
(上位概念・下位概念については、また別記事で書けたらと思います。)
しかし「おどうぐばこ」は「おどうぐばこ」以外の何物でもありません。
学校生活でほぼ毎日出てくるこのことばは、非常にやっかいでした。
「おどうぐばこ」と指文字と口形で伝え、そのあとに「おどうぐばこ」の形を手で表して伝える(CL)という方法でなんとかしのいだ感じです。
この「おどうぐばこ」は卒業するまで使い続けるもので、きれいに使っている子もいれば、6年間でボロボロになってしまう子もいました。
小学校では、様々な道具を使うことで手先の器用さが成長していきますし、集中力も身につきます。
道具を管理することも学習の一環です。
学校というのはこういうところも育てていく場所なのだなと思い、教育は奥が深いとしみじみ感じたものです。

さて、本題。
図工だろうが、音楽だろうが、体育だろうが、ろう児にとって知らないことばはいつでも出てきます。
私が手話でさらっと表現して伝えてしまうことはたやすいのですが、
「このことばは、おそらく知らない。」
と私がまずアンテナをしっかり立てて、ことばに敏感になりながら、まずは日本語(指文字)で伝えます。
日本語的だなと感じることばはいろいろありましたが、「なぞる」は難しい日本語だと感じました。
教員は「しっかりなぞりなさい」という指示をいたるところで出します。
国語ドリルや書写(硬筆)ドリルでも「なぞる」ことは大切にされていました。
「しっかりなぞって」とろう児に言ったところで、ふたりには「なぞる」の意味が分かりません。
「なぞる」など未知のことばです。
聞こえる子ならなんとも思わずに分かることばでも、ろう児には通じません。
丸なら丸を、しっかり「なぞる」様子を手話で伝え、そのあとに「なぞる」と指文字をします。
できていれば、うんうんとうなずいてOKと手話し、できていることを伝えます。
しかし、たいがい子どもは雑に描いていますので、
「はみ出しちゃったー!」
と、聞こえる子が言っているのが聞こえてきます。
「はみ出す」ということばも、難しいと感じました。
「『はみ出す』って分かる?」
とろう児に聞くと、当然首をひねります。
すぐに先ほどの丸からはみ出した部分を私は指差し、
「はみ出しちゃったね」
と教えます。
そうすると隣の聞こえる子がちらっとのぞいてきて、
「ホントだ!はみ出してる!」
言ってきます。
すると今度はろう児もその子の絵をのぞき、はみ出しているところを指差します。
声は出していませんが、意味は理解できていますし、伝えることもできています。
「自分だってはみ出してるじゃん!」
となるわけです。
お互いに、「なんだよ~~」とけん制し合いますが、仲良く色塗りなどの作業を楽しみ始めます。

こんな感じに、聞こえる子と一緒に活動をしていましたので、いろんなやりとりを行いながらことばを伝えてきました。

「はみだしちゃったーー!!」

ろう児が声を出してこう言っていたときは、思わず笑ってしまった私です。
おそらく将来的には声は出さずに手話メインで話すようになる子たちだろうと先のことを考えつつも、小学生らしく元気に楽しそうに活動する彼らは、いつもキラキラと輝いて見えました。

 

地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。