コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

【ろう児教育支援19】補聴器 その2

f:id:codamind:20210915152906j:plain

「聞こえなくても音を聞きたい」

その気持ちは分かるし、聞かせてあげたいのはやまやまですが、どうしたって聞こえないものは聞こえません。

「聞こえな~~い」

と残念そうに言っていることは、しばしばありました。
しかし、そう言わなくなったのは中学年から高学年にかけてでしょうか。
この頃になると、自分は耳が聞こえないということを確実に認識していったようです。

聞こえないふたりのために私がいました。
「手話を見なさい!」
何度もこう言ったのを覚えています。
私はふたりに手話を見せてきました。
状況を見て分かるものや雰囲気で分かるものもあるかもしれませんが、手話を見て理解してほしいという想いが常にありました。

状況に応じてなのですが、ろう児は手話も見ながら声も聞いている様子でした。
私はコーダですがろう者になったことは無いので、耳の聞こえない人に音がどのように聞こえているのかは、実際のところは分かりません。
加えてふたりのろう児は、聴力が微妙に違いました。
その違いも感じ取りながら、私はそれぞれに必要な支援を行ってきたつもりです。

補聴器を毎日活用していたふたりですが、補聴器は万能ではありません。
電池が切れたり、補聴器そのものの調子が悪かったりと、精密機器はデリケートです。
そんなデリケートな機器を、やんちゃ盛りのろう児がきちんと取り扱えるわけがなく、かといって私も担任も聞こえる人なので、補聴器の扱い方や管理の仕方が分かりません。
難聴児教育においては、「補聴器の管理」も指導しなければならないようで、この点に関してはとても苦労しました。

中休みや体育の授業の後、ふたりはいつも汗でびちょびちょでした。
特にリクは相当な汗っかきで、なかなか汗が止まりません。
滝のような汗をいつもかいていました。
補聴器もびちょびちょになってしまいます。
そうなると、「聞こえな~~い」と言い始めるわけです。
汗で濡れた補聴器は機能しなくなります。
そんな補聴器を、授業中でも着けたり外したりするので、集中できません。
あげく、ノートや教科書の上で分解し始め、補聴器を乾かし始めます。
授業になりません。

汗はまだいいのですが、プールの後が問題です。
泳いですぐの耳へ補聴器をするのです。
髪の毛だって濡れています。

「さすがに外しなさい…。乾いてから着けて。」

と言っても、ふたりはなかなか言うことをききません。
酷い言い方かもしれませんが、私には、プールから上がってすぐの耳に補聴器で蓋をしているように見えていました。
ろう児は何が何でも音を聞きたがったのです。
学校の中(というよりは、おそらく家の外)では、音を聞くふたり。
聞こえないろう児が、耳を凝らして音を聞くことはさぞかし疲れるだろうな…、と、私はいつも心配していました。
ソラは体力があり何事にもタフでしたが、リクがよく頭痛起こしていた原因は、おそらく耳を使うことで、脳に負担がかかっていたのではないかと思われます。

「手話があるからいいじゃない。ダメなの?」

と説得しても、低学年のうちはなかなか聞き入れませんでした。
彼らは聞こえない耳で音を聞き、音を頼りに学校生活を送っていたのです。

 

地域の公立小学校(ろう学校ではありません)にて6年間、耳の聞こえない児童ふたり(ソラとリク)に手話を使って支援をしてきたコーダの私(シオン)が感じたことや考えていたことなどを書いています。大勢の聞こえる子どもたちと一緒に過ごした日々を少しづつ紹介。聞こえない世界と聞こえる世界の狭間から見えていた様子を、少しでも感じ取っていただけたら幸いです。