コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

コーダは親の文章を直す。

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コーダも十人十色。
家庭が違えば考え方も違うので、コーダで話すといろんな話題が飛び出します。
「親からのメールが、文字なんだけど手話なんだよね。」
うちは、親とメールでやりとりをしないので、
「ほかのコーダたちは親とメールするんだぁ…。え?メール?文章ってこと!?」
そんなことを考えていると、聞こえない親からのメールをコーダたちが見せてくれます。
日本語で書いてはあるものの、助詞はめちゃくちゃ。
単語レベルですらあちこち間違っています。
日本語で理解しようとすると混乱するので、そこに書いてある単語を手話で表現していくと、ようやく意味が分かります。
「これは大変だわ…」
絵文字も多用。
むしろ、文字よりも絵文字の方が意味がよく分かるなんてこともあるようです。

日本語が苦手なろう者たち。
こう書くと、「そんなことない!」と言うろう者の方々がいますが、それは比較的若い世代の方がほとんどだと感じます。
その方々を否定するつもりは毛頭ありません。
私よりずっと優秀なろう者もいますし、大卒のろう者は今では大勢います。
自動車免許を取得する際にも、「文/むずかしい」などと言うろう者は、昔に比べて相当少なくなったと思います。
私の父は、2度目の試験で免許が取れたそうです。
しかし、実は2度目で合格は優秀な方で、3回~4回…と苦労してろう者たちは自動車免許を取得しています。
運転技術はあるのですが、筆記試験が合格できないのです。
私の父世代のろう者たちは、「文/分からない/むずかしい!!(強めのNMMがポイント)」と何度も何度も私に話してくれます。
文字で書いてある日本語(書記日本語という言い方もします)は、ろう者たちにとって難しく、意味を理解することが困難でした。

何が言いたいかと言うと、私は、「ろう者は日本語が苦手」ということを言いたいのではなくて、「自分たちが一番生き生きと話せる手話を禁止され、聞こえない音や声を聞けと指導され続け、厳しい口話訓練を受け、聞こえるはずのない日本語を正しく理解できないままろう学校を卒業し、何十年と社会で生きてきたろう者たちが大勢いる」と言いたいのです。
そのろう者たちは、私のようなコーダの親です。
ろう学校に通えたろう者は幸せな方で、コーダたちの中には、
「うちの親は無学です。学校に通ったことがありません。」
と話してくれるコーダもいます。

そういったろう者の子どもであるコーダは、聞こえるがゆえに日本語で親に話しかけます。
聞こえないことは分かっていますので文字を書くのですが、それも伝わりません。
それが起きたのは、私の場合は小学生の頃でした。
学校からのプリントに書いてある内容は、母には理解ができないところがありました。
それどころか、父や母が書いた文章を私が添削して直していました。
小学生だった私が実際にやってきたことです。
私は成長するにつれ日本語力が上がっていきますが、父や母はずっと日本語が下手なままです。
「私の両親は、なんでこんなにことばがわからないんだろう。」
誰もその答えを教えてはくれません。
聞こえないから仕方がないのだろうと思いはしますが、親として役割を果たしてほしいと私は思っていたのです。
「どっちが親だよ!!」
私はいつもそう思っていました。
ことばやことばの意味を教えるのは、いつも私の役目でした。
「親が子どもの文章を直す」ではなく、「子どもが親の文章を直す」のが日常。
親がファックスに書く文章は、おかしな日本語
けれど、送られてくるファックスの文章もまた、おかしな日本語でした。
両親のまわりのろう者たちは、皆同じような文章の書きぶりだったのです。

こんな話題になるとコーダたちは口をそろえて、
「分かる~~!!うちも一緒!」
みんなそう言うのです。

かつてのろう教育に文句を言いたいわけではありません。
日本語を身につけられなかったろう者たちを悪者にしたいわけでもありません。
しかし、ろう者が学生学生時代に身につけることのできなかった日本語は、やがて結婚したあとに生まれるコーダへしわ寄せが行きます。
というか、私にはしわ寄せが来ました。
いったい誰に対して、どこに対して、やりきれない気持ちを訴えたら良かったのでしょうか。
コーダというアイデンティティや、共感してくれるコーダたちに出会うことが無ければ、私は死ぬまで親を恨み続けたでしょう。

聞こえないという障害は、目には見えない障害です。

今私のまわりにいるコーダたちは、私と同じような経験をしてきているコーダばかりです。
私たちコーダは、「聞こえない」ということをどうにか社会に分かってもらうために、日々奮闘しているのです。

◆コーダについて◆
あくまでも私の経験と主観に基づいて、私なりに記事を書いています。
コーダがみんな同じような経験をしているわけではありません。
コーダの想いは様々です。どうかご理解いただけると嬉しいです。