コーダ☆マインド

耳の聞こえない親を持つ聞こえるシオンが考える、コーダのことや手話のこと。

コーダは耳で聞いて理解できている?

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私は耳で聞いた情報を理解するのが苦手です。
聞こえるのに苦手です。
聞こえてはいるのですが、聞こえるからといって理解できているかどうかは別の話です。
耳で聞いたことを脳で情報処理することには、経験が必要だと思います。

私は両親ろうのコーダです。
両親と音声で会話をしたことがありません。
親は私に対して声で話しかけてきますが、私の声は親には聞こえません。
なので、私が親に合わせて手話や口話をするしかありません。
それは、幼い頃からずっとです。

音声での会話経験がほぼない状態で成長してきましたから、家の外では大変でした。
音声は聞こえますが、聞こえる人から何か話されてもパッと理解できないのです。
10代の頃の私は音声が理解できない自分が許せなくて、自分を責めました。
私はできない人間なんだ、と。
でも、そうではないということがやっと分かったのは20代の頃でしょうか。
音声での会話経験が日常生活の中で無かったために、音声で会話をする力を身につけることができていなかったのです。
私は聞こえる学校に通っていましたが、学校だけでは会話力やコミュニケーション力を身につけることができませんでした。
授業やほかの人が喋っていることは理解できていたので、成績は悪くありませんでしたが、通信簿に先生から書かれるコメントはいつも「おとなしい」でした。

「おとなしい」のではなくて、本当は「会話の仕方が分からなかった」のです。
先生と話すときも、聞かれたことには「はい・いいえ」で答えられますが、そこから会話を続けるなんてことはできません。
会話を続けるなんて発想すらありませんでした。
音声で聞こえる人と話すことは、私にとっては恐怖でしかなく、できれば避けて通りたいといつでも思っていましたから。
それでも「聞こえるから」という理由だけで聞こえない親の代わりに大人と話すこともしてきましたが、人と話すことが苦手な私のことに気がついてくれる人は誰もおらず、幼い頃からずっとひとりで苦しんできました。
つらいということを伝えることばも分からなかったし、誰にどうやってつたえたらいいのかも分かりませんでした。

「言われていることが分からない」
と手話で親に言うと、
「お前は聞こえているだろう!」
と怒られました。
八方ふさがりな状態。
聞こえない親に、聞こえる私のつらさを分かってもらうことはできませんでした。
世の中には、子どもには分からないことばがたくさんあります。
私は父や母からことばを教えてもらいたいと思っていましたが、それは叶いませんでした。
私が父や母にことばを教える経験は何度もしました。

これが子どもの頃の私の日常だったのです。
今の私をご存知の方は信じられないかもしれませんが、私は口の利けない子でした。
「耳で聞いたことがしっかり理解できているか」も、以前の私では怪しかったと思います。

「ことばを耳で聞いて理解すること」は、できて当然では無いことだと私は考えます。

私のように、家の中で音声で会話する経験が無ければ、できるようになりません。
家族でたくさん会話をすればことばを獲得していきますし、どういう風に話し始めたり話し終えたりするのかも、自然と身につくのでしょう。
どんなタイミングで質問すればいいのかも、ことばのキャッチボールをしていくうちに、だんだんとできるようになります。
そういったことが、我が家の場合は、手話でも音声でも行われることはありませんでした。
「会話」ではなく「要件を確認」するレベルでしかなかったのです。

今でもときどき、幼い頃の感覚を思い出すことがあります。
誰も悪いわけではないので誰のことも責めることはできませんが、幼かった私がつらい日々を過ごしていたのは紛れもない事実です。

耳で聞くことのできない親に育てられると、こういったことで悩んだりもするのがコーダなのです。

 

◆コーダについて◆
あくまでも私の経験と主観に基づいて、私なりに記事を書いています。
コーダがみんな同じような経験をしているわけではありません。
コーダの想いは様々です。どうかご理解いただけると嬉しいです。